
施主は30代のご夫婦で、娘さんが小学校にあがるのを機にマイホームを建てようと計画されたとのこと。以前住まわれていた商店街が少し賑やか過ぎたこともあり、プライバシーに配慮しながら光や風、緑などの自然環境を取り込んで娘さんがのびのびと過ごせるようにというお考えがあったようです。静かで明るく開放的な空間を強く望んでいらっしゃいました。

施主はご夫婦とも非常に具体的なイメージをお持ちでした。例えば、白を基調にしたシンプルでスタイリッシュなデザインにしたいとか、家族と向き合って料理ができるオープンキッチンや自然環境を取り込む中庭が欲しいなど。それに、必要な空間ボリュームを補完するための地下室や奥さまのための読書室など、多岐に渡ってご要望がありました。

玄関を入ると吹き抜けによって視線が抜ける。また隣家からの目隠しを兼ねて竹を植えた奥のデッキへと一直線に見通せるため広々と感じられる。左は子ども部屋、右はガラス張りのバスルーム。

要望したものがなかったわけですから最初は驚かれていましたが、すぐにこちらの意図を理解していただけました。建築家コンペとしては大胆な代案だったかもしれませんが、敷地の個性を読み解き、施主のご要望の本質をきちんと汲み取ったものとして評価していただけました。結果的にコンペで採用となったのですが、基本設計のほとんどの部分はこの段階で固まりました。

ポイントはやはり吹き抜けでつながった地階と1階の一体空間です。南側にテラスを設けてスペースを作り、春分・秋分の日差しが効率よく地階に届く角度と距離をプランしています。地下室というと壁に囲まれた薄暗い部屋をイメージされることが多いでしょうが、ここでは真冬をのぞいて陽だまりができる快適空間になっています。

1階の娘さんの個室は吹き抜けに向かってガラスの引き戸を開け放つことができます。地階と1階はコミュニケーション可能な一体空間でありながら、それぞれのプライベートなスペースもきちんと切り分けることができる。あらかじめ機能を限定してしまわないことで、これから変化していくご家族のライフスタイルに合わせ臨機応変に使うことができるはずです。
吹き抜けや南側デッキに対しガラス張りのバスルーム。夜にはデッキの竹をライトアップしながら湯船につかることも可能。ほかの部屋から見えても違和感がないようディテールにまでこだわる。

屋外の中庭よりもむしろ多目的に使える自由なスペースとなりました。ご主人の蔵書や奥さまが集められた料理の本などが並ぶ読書室は、やわらかな光の中で思い思いに本を読んで楽しめます。また、向かい合う個室も引き戸を開け放つことで一体化して広く使えますから、2階のLDKとは印象の異なるもうひとつのリビングのようなイメージでとらえることもできるでしょう。実際に、夏場は涼しいので地階で食事されることもあるそうです。

実は1階・2階は木造ですが、地階はRC造というプラン。外断熱とし、このコンクリート躯体の熱容量を活かすということも「南千束の家」では重要なポイントでした。つまり地階の躯体に、夏は涼しさを蓄え、冬は床暖房による暖かさを蓄えておくわけです。特に冬場は輻射熱による全館暖房となりますから、一体空間のどこにいても暖かさを感じることができます。
